映画鑑賞日記_聖の青春(ネタバレあり)

タイトル:聖の青春

見た日:2024/01/19

鑑賞方法:DVD

 

【ストーリー】

将棋をやったことがなくても羽生善治さんの名前はたいていの人が知っていると思う。 羽生さんが若く将棋のタイトルマッチ(竜王戦名人戦など)を片っ端から取りまくっていた時代、「東に天才羽生、西に怪童村山」と言われた羽生さんに並び立つ棋士がいたのだ。その名は村山聖。幼い頃より腎ネフローゼという難病を抱えつつ、入院中に将棋にハマり、10代後半には才能が開花し、プロデビューを果たす。腎ネフローゼは常にむくみ、倦怠感、ひどいときには高熱を出す病である。この病を抱えながら将棋に命をかけ、29歳で亡くなるまでの4年を描いた作品である。  この映画は将棋雑誌の編集者である大崎善生が著したノンフィクション小説「聖の青春」を原作に、多少の改編を加えている。

 

※以下、映画の内容について言及しています。(ネタバレあり)

 

【感想】

お気に入りメーター:75

 

・将棋にある程度興味がある人にお勧め。奨励会の存在や羽生善治の名前は知ってしっておいたほうが面白く読める。

・序盤がテンポ良く進み、主人公となる聖や周りの人間関係を上手く説明してくれるので、一気に引き込まれる。

・あらすじから暗い話かと思われるが中盤までは笑えるシーンもあり、奨励会棋士、その師匠など将棋界について興味深く見ることができる。

 

・将棋のことを今までよく分からず、棋士は何十手先も読むのでとても頭がいいということしか知らなかったが、この映画では棋士とは勝負師である、という事を知った。 対局で勝つか負けるか、それは殺すか殺されるかとも言える。 プロ棋士の制度をまだちゃんと理解できていないのだが、棋士には勝率に比例してランクが付与され、年間に定められた数の対局で勝利できないとしないランクが下がってしまう制度になっているらしい。棋士という人生を選んだ以上、勝ち続けなくてはいけない。

 中盤で会津若松で村山と羽生さんの対局があり、村山が勝利する。その後、二人で飲みに行くという印象的なシーンがある。将棋以外の趣味は合わず、会話は盛り上がらない。「僕たちはどうして将棋を選んだのでしょうね」と村山が羽生さんに聞く。その時に羽生さんは「私は今日、あなたに負けて死にたいほど悔しい」「負けたくないそれが全てだと思います」と答える。村山も「羽生さんの見ている海はみんなとは違う」と答える。「怖くなる。深く潜りすぎて、そのうち戻ってこられなくなるんじゃないかって」羽生さんが応じる。窓の外には雪が降り注ぐ、静かなシーンであるがとても印象的だった。勝ちたい、強くなりたいのではなく、負けると死にたいほど悔しい。 自分が人生で感じたことの感情に、凡人の自分と天才の彼らの間の溝を感じた。 

  またこのとき村山は、自分には夢があるがこの難病を抱えた身体では叶えることができないだろう、しかし難病を抱えたからこそ将棋に出会うことができた、と言う。 29年という村山聖の短い将棋人生。体調が悪い日も多い中、勝率は高く、もしも健康だったら羽生さんと肩を並べる天才になるという人生があったかもしれない。しかし健康だったら将棋をやっていなかったかもしれない。神様のいたずらか、なんと言えば良いのだろう、人が生きることの難しさ。

 この映画は村山聖の数奇な人生が大きなテーマになっていると思う。 命を削って将棋をすること、でも将棋をしなければ彼の満足する人生ではない。 終盤は病に冒され亡くなるまで、弱っていく姿とそれでも将棋を打とうとする姿に圧倒される。  凡人の自分が歩むことのない、複雑な人生。 映画全編に派手なシーン、全米が涙するような感動的なシーン、ミラクルなハッピーエンドはない。静かに村山聖の人生の傍観者となれる、そんな映画だった。

 

・東出くんの羽生さんが信じられないほど似ているし、かっこいい。序盤に羽生さんと村山の対局があるが、そのときは東出くんの羽生さんのかっこよさが脳の半分をしめてしまうくらいかっこよかった。また東出くん本人も将棋を嗜み、羽生さんに演技指導をしてもらったこともあり対局中の表情は本物の羽生さんかと思うほどだった。普段の爽やかなイケメン俳優の表情はすっかり潜み、勝負師の顔つきになった東出くんがとてもかっこよかった。